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“日本ワインの父”澤登の遺志継ぐ者  国立市から横手市へ 娘夫婦がブドウ農園主、育種家として挑戦の日々

(雪国TODAY2018年1月号/全文3600文字/写真6枚)

未明から降り続いた雪。ブドウ畑は一夜明けると、膝まで積もった新雪に覆われていた。農園主はブドウ棚の倒壊を恐れた。秋田県横手市大森の保呂羽(ほろわ)カントリーファーム32回目の新年が雪との闘いで始まった。山梨から東京・国立、そして雪深い出羽丘陵へ。父と娘、娘の夫―2代にわたるワインに懸けた夢が続く。(敬称略)

保呂羽カントリーファーム2016年産の山ブドウ交配種「小公子」で作られた赤ワイン。

ラベルに339本限定の刻印。大仙市の卸しカネトクの委託で岩手のワイナリーが醸造し、昨年6月に同社が販売した。

そのうちの1本。瓶詰めから半年経過した年明けに栓を開けた。辛口で芳醇。口に広がった赤ワインは程よいまろやかさで、苦みがちょうど良い。

瓶のラベルに農園主が一文を寄せている。

―赤ワイン用ブドウ「小公子」は、中山間地の農業振興に力を尽くしてきた民間育種家・故澤登晴雄氏の育成品種で、山ブドウ交配種と言われています。

この品種は赤ワイン用ブドウ品種の中でもポリフェノールが豊かで桑の実のような味わいも感じられます。

色調は青色を帯びた黒紫色、野性的な力強い果実味や香りを楽しんでいただきたいミディアムボディの辛口ワインです。

原料ブドウの栽培には、化学肥料や除草剤を一切使用していません。そしてできる限り農薬を減らす努力を続けています―

 

「小公子」とは別にファームの主力品種は山ブドウ交配種の改良を重ねた「ヒマラヤベイリー22」。10月上旬に3日間で収穫し、山形のワイナリーで醸造。クリスマスの販売にようやく間に合った。限定648本(720㍉㍑)で、販売店は地元大森町のうえたストア、安田商店と平鹿町浅舞の石川商店、十文字道の駅。それに大仙市のカネトクの5カ所。17年産「小公子」は岩手のワイナリーで熟成中。今年6月の瓶詰めを予定している。

「例年よりも雪が多い。今冬は豪雪の予感がする」。膝まで積もった雪を漕ぎながらブドウ園に辿り着いた農園主の佐々木敏明(60)。広さ80㌃に張り巡らされたブドウ棚が雪の重みで倒壊していないかと心配だった。

 

収穫後の昨年10月以降、雪融けの3月までブドウは休眠期。この間の枝の剪定、誘引がブドウの品質、収量に直結する。「晩秋のブドウ畑はモグラ、野ネズミ、野ウサギの楽園だった。土壌は軟らかくふかふか。ブドウの栽培に適した土を作るために30年を要した」と佐々木。

 

「30年前、やっとのことで土地を取得。でも粘土質で酸性土壌、しかも斜面。資金の手当にも苦労した」と話す妻の三千代(61)が佐々木の人生に大きな影響を与えている。

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名物社長と新屋温泉 新春の湯加減いかが 樹齢250年ヒバの大黒柱湯けむりにかすむ

(雪国TODAY2018年1月号/全文960文字/写真2枚)

新屋温泉の新春。大浴場は湯けむりにかすみ、主人の名物社長は温泉に浸かって喉の調子を確認していた。疲労感はなかった。年の瀬から正月にかけて地元民放3局のラジオ番組でパーソナリティーをこなし、充実感に満たされていた。

温泉を経営する髙橋大和さん68歳。多才な男だ。本業は地元新屋の高松木材(株)の社長。自らを〝ふろ歌手〞だという。得意はムード歌謡。県内のディナーショーで前座を務めることも。

温泉は藤里町産のヒバを惜しげもなく使って15年前にオープン。大浴場の樹齢250 年を超える大黒柱が黒ずんで堂々とした風格を漂わせていた。「以前は社長の母親がフロントで客に対応。にこやかな笑顔と飾らない人柄が親しまれた」と常連客。その母親は亡くなったが、変わってヒバの大黒柱が訪れる客を迎えている。

 

地下700㍍から湧く湯量は毎分260㍑で41・5度の強塩泉。県分析センターによると、ヨウ素イオン濃度が全国の温泉の中でもトップクラスの高い数値。新屋温泉のキャッチフレーズは「痛みが和らぐ温まりの湯」「皮膚によく効く美肌の湯」。

腰痛、肩こり、神経痛、筋肉痛の人に人気があり、美肌効果も抜群という。湯冷めしにくい40度のぬるめと42度の熱めの2種類がある。

常連客と世間話に花を咲かせる髙橋大和社長(中央)

「ここのお湯は温水プールの消毒に使う塩素で弱った肌にとても良い」

82歳だという水泳が趣味の手形からの常連客、佐藤さんに話しかけられた。「消毒剤の塩素で肌が荒れて痒くなるんだな。新屋温泉に浸かれば直る。強塩泉が私の肌に合うのかな」

 

源泉をなめてみた。しょっぱい!髙橋社長の先代松之助は製材業を営みながら秋田大学の成人講座で地質学を学び、専門家に温泉は出ないと否定されたが掘削を決意。平成8年3月から5ヵ月を要して約1千万年前の地層から温泉を掘り当てた。入浴施設は息子の髙橋社長に引き継がれ、平成15年7月にヒバの巨木を生かした大型の木造建築物として完成した。

1千万年前、大規模な地殻変動があった。その時、海水が地下に閉じ込められた。その海水が温められて現代によみがえったしょっぱい温泉。

「どうですか。悠久のロマンを感じさせる新屋温泉の湯加減は?」。髙橋社長が館内を忙しく動き回った。