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「東京で金稼ぎたい」若者は居酒屋を去った 人口減少深刻な秋田県 負のスパイラル

(雪国TODAY2017年12月号/全文1600文字/写真4枚)

彼は実家近くの秋田市広面のアパートに住み、この日が最後の出勤。焼き台のハツ、タン、手羽先の焼き加減に納得した。傍らに自分と入れ替わりにカウンターに立つ学生アルバイト。時刻が零時を回り閉店の時間を迎えた。「ここに2年半です。お世話になりました」と同僚に言葉を掛けた。人口減少率が全国一の秋田県。特に若年層の県外流出が深刻だ。彼は年明けに秋田を離れ、首都圏の自動車部品工場で働くことが決まった。

日本酒の熱燗をコップに注ぐ鎌田さん。この日がトリス軒最後の仕事

秋田駅前の居酒屋・トリス軒。ホルモン、焼き鳥、おでんなど数えれば切りがないほどのメニュー。昭和の雰囲気たっぷりの店内と驚くほどの低価格が人気だ。

店内に昭和のスター植木等のスーダラ節や銀座のカンカン娘などの曲が流れていた。若者から年配者まで常連客でカウンター席はぎゅうぎゅう詰めだ。

 

鎌田拓也(23)は11月30日でトリス軒を退職。都内の派遣会社から年明け就業の連絡が入っているが、配属先はまだ確定していない。広面のアパートを引き払い、年内に上京する準備に忙しい。

 

広面小、城東中、新屋高を卒業し、県内の商社に就職。その後、トリス軒に転職している。

「一人っ子です。親は現役で働いており元気。東京に出るなら今が良いタイミング。でも2、3年したら戻って来る。大型トラックを買う資金を稼いできたい。将来は秋田で運送業を始める」と表情は明るい。

 

秋田県は2017年4月21日、人口が初めて100万人を割ったと発表した。10月1日現在の人口は995,374人。この1年間で14285人の減少となった。

 

厚生労働省が昨年12月5日に発表した2015年の人口動態統計(確定数)によると、秋田県は、出生率や婚姻率などで全国最悪。 人口1000人に対する出生率は、前年比0.1ポイント減の「5.7」で、21年連続の最下位。婚姻率は0.2ポイント減の「3.5」で、16年連続の最下位だった。

 

死亡率は0.1ポイント減の「14.5」、自然増減率は前年と同じ「マイナス8.8」で、それぞれ4年連続のワースト1位。加えて、人口10万人に対する死因別死亡率のうち、がんは前年比1.0ポイント増の408.3で、19年連続で最下位。

 

こうした事態に秋田県あきた未来創造部は「最大の原因は全国一の高齢化率。また、進学や就職で、首都圏をはじめとした県外への若者の流出が加速している。大学を卒業しても秋田に戻ってこない。戻ってきても再び県外へ行ってしまう」と分析した。

 

若者が減るから結婚する人が減る(婚姻率が下がる)、結婚する人が減るから子どもが生まれない(出生率の低下)、高齢者が増えて自然減が進むので全体的な人口減少に歯止めがかからないという負のスパイラルに陥った。


 厚生労働省の都道府県別現金給与総額で秋田県は全国ワースト4位だ。

鎌田と常連客との会話が弾んでいる。「今の月給は手取りで15〜16万。首都圏の自動車部品工場ではこの2倍の給料になるらしい」と東京での高額収入、その先の秋田での事業に期待を膨らませた。

秋田県みらい未来戦略課が県内の雇用創出へ的を絞った。

「若者にとって魅力的な仕事というのは、将来性があり、長く続けられる仕事。県内で成長が見込まれる5分野に注力したい。航空、自動車、新エネルギー、医療福祉関連機器の生産、情報産業だ。既に県内に下地があるこの分野で雇用の受け皿を増やしたい」と真壁善男課長。

 

一方、県内への移住者が増加している。秋田移住定住総合支援センターに登録している人は2015年度で137世帯293人。移住した世代は30代が最も多く、子育て世代と起業希望者が中心だという。

 

鎌田さんが去ったトリス軒のカウンター。学生アルバイトが焼き台の火加減に苦労していた。

「早く一人前になれよ」と常連客がつぶやき、師走の繁忙期に入った。