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ほのぼのと五城目朝市 田舎暮らしに魅了され若者定住

(雪国TODAY2017年11月号全部900文字/写真3枚)

男性は馬場目川源流の五城目町北の又集落で育った。父も祖父も、そのまた先代も山菜、キノコなどの山の幸を朝市で売って生計を立てた。リヤカーを引き、峠をいくつも越えて朝市通りに辿り着いた。

最高のナメコを提供する近野さんとカフェの開店準備をする坂谷彩さん

「おじさん、これもキノコ?」 女性は手に取って香を確かめた。

「サルノコシカケ。煎じて飲めば風邪ひかないよ。滋養強壮には一番」

男性が応じると、

「ジ・ヨ・ウ・キョ・ウ・ソウ」と女性が一音ずつ確かめた。

「サルノコシカケ――喫茶店のレシピに利用できないかな」

 

女性はこの町で生まれ、町の男性と結婚した。のんびりとした田舎暮らしを気に入

っていたが、もっと元気な地域にしたいと思うようになった。朝市通りの空き店舗を借りてカフェの開店準備を始めた。

 

500年の歴史を持つ秋田県五城目町の朝市。この日もあちこちで会話が弾んでいた。往時のにぎわいとはほど遠いが、若者グループがイベントで朝市盛り上げに一役買っている。

 

「先週の日曜日は仮装した若者、子どもたちでにぎわった。10月15日のキノコ祭りはすごい人出だった」と朝市通りの商店主。

 

朝市通りの旧家を活用した姉妹都市ちよだ五城目交流館。その黒塀に「100円コーヒー」の看板。旧家の庭のモミジが真っ赤に紅葉している。横浜市在住の吉野伸江さん(72)は同町出身で、1週間の予定で店番をしている。

 

旧家を利用した「100円コーヒー」

今年4度目の帰郷だ。「古里を離れて50年。首都圏の仲間と交代で店番をしている。だから毎日営業というわけにはいかない」

 

カフェの開店準備に忙しい坂谷彩さん(35)は「オープンまで少し時間がかかるかな。納得のいくカフェにしたい。若いお母さんや子どもたちも楽しめる場にしたい」と目を輝かせた。

 

山菜、野菜、鮮魚を求める人たちで賑わう五城目朝市

サルノコシカケを売っていた近野格也さん(74)。

「馬場目岳に初雪が降ったら今年のナメコは終了」。近野さんのナメコは標高600〜800㍍の山で原木栽培。高所で育つナメコは天然ナメコと品質、味わいは変わらない。それ以上かもしれない。

 

朝市を楽しんだら近くの温泉、駅前の割烹のだまこもち、食堂の天ぷら中華が良いかもしれない。朝市が500年続く五城目町の魅力に触れることができる。

乳頭・黒湯温泉と旧池田氏庭園 ——豪農の矜持 16代当主泰久の晩秋

(雪国TODAY2017年11月号/全文4345文字/写真12枚)

晩秋の乳頭温泉郷。館主は硫黄の源泉の前に立っていた。この日午前、秋田県大仙市の旧池田氏庭園に隣接する自宅から乳頭・黒湯温泉へ車を走らせた。庭園も温泉郷も紅葉を楽しむ人たちで華やいでいた。
インターネットサービス(SNS) を充実させた温泉宿の経営は順調だ。池田家16代当主・泰久。68歳の晩秋。 (敬称略)

晩秋の乳頭温泉郷・黒湯温泉。燃えるように染まるブナやモミジ、カエデの紅葉

マイカーが次々と到着し、乳頭温泉郷の夕暮れが近付いてきた。田沢湖高原を過ぎて鶴の湯、乳頭休暇村、妙乃湯、大釜、蟹場、孫六、黒湯――7つの温泉宿の湯煙が訪れる人の郷愁を誘っていた。

乳頭の登山口に近い黒湯から宿泊客らのざわめきが聞こえてきた。登山や行楽を楽しんだ人たちが、1日の疲れを癒す乳白色の硫黄の湯を楽しんでいる。フロント棟の奥にある混浴露天風呂にランプの明かりが灯った。

宿泊客が湯船に身体を沈めると、「橙色に染まったブナの原生林が迫ってくる。いいな、東北の山、硫黄の山の湯。開放感に浸れる」。
先達川源流のせせらぎが山の宿の静寂を際立たせ、燃えるように染まる乳頭の山並みが冬の訪れを告げていた。

SNSを充実させたことで、休日の宿泊予約はなかなか取れない状況が続く黒湯。平日の宿泊客は30〜50人。土、

日曜日は満室の70人という繁盛ぶりだ。
宿泊客の内訳は県内約5%、外国人15〜20%、県外客75%でスタッフ25人が対応している。

「昨日はドイツ人の登山客が3人宿泊した。SNSの充実で世界中どこからでも予約申込がある。東北の山を楽しみ、日本文化に触れたいと、お越しになられます」。 そう話す館主の妻佳子(54)の顔がにこやかだ。

一軒宿・黒湯の部屋数は多い。8畳と10畳の一般客室14室と自炊棟に22室。この他に昭和39年、高松宮様が春スキーに訪れた際に宿泊するために建てられた別荘と呼ぶ離れが一戸。各室フル稼働が続く。

「世の中、おもしろい。不思議なものだ」。池田家16代・泰久は荒涼とした硫黄の源泉の前で栄華を極めた先代たち、その後の時代の変遷を思い感慨に耽った。

黒湯温泉は乳頭温泉郷で随一の湯量。源泉の状態を確かめる池田家16代当主の泰久

 

「インターネットで世界中から乳頭温泉郷の黒湯温泉に宿泊の申込がある。先代たちは仙北平野に広大な農地を築き、そして農地解放という時代の荒波にのまれた。が、いまや黒湯は世界中に日本の伝統文化を発信し続けている。広大な農地に代わって黒湯の前に無限に広がる情報社会がある」

池田家16代の歴史は、江戸時代初期の旧仙北町高梨村の肝煎(きもいり)を務めた孫左衛門に遡る。明治時代中期から戦前まで高梨村村長を務め、山形県酒田市の本間家、宮城県石巻市の斉藤家と並ぶ東北3大地主に成長していく。

12代当主は秋田県選出の最初の貴族院議員。秋田銀行の初代頭取を務めている。泰久は地元の高梨小、大曲中、横手高、早稲田大を卒業し、旧三井銀行入り。その後、32歳の時に旧羽後銀行へ。

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