2017年06月01日
(雪国TODAY2017年6月号/全文3200文字/写真9枚)
秋田県角館の枝垂れ桜は4度咲くという。深い木立と重厚な武家屋敷構えが藩政時代の面影を残す内町と外町。料亭主人のブログ「角館紀行」は4000回を超えた。「枝垂れ桜は4度咲く」と発信し続け、いまや貴重な観光資源となっている。そればかりではない。日本の絵画史に名を刻んだ解体新書の小田野直武や平福父子の色彩、写実主義も4度咲く枝垂れ桜から生まれていた。

角館の武家屋敷通りに緑が降るかのようだ
「葉桜という言葉がマイナスイメージ。花が散って、もうおしまいという語感がある。角館の桜の魅力は来年の花の満開まで続く。桜は4度咲く」。日課の早朝の散歩に出かけるため裏木戸の門を出て来た田町武家屋敷通りと接する上丁の料亭稲穂の主人、後藤悦朗は眠たげに目をこすった。「花は散ってしまったが昨夜も料亭を訪れた観光客の対応で就寝は遅かった。冬はともかくとして年中訪れる観光客で角館は活気がある。桜に感謝しなければ」角館の枝垂れ桜は内町、外町を中心に約
400本。今から約330年前に佐竹北家が角館を治めてからほどなく植えられている。樹齢300年を超える古木も。このうち国の天然記念物に指定された桜は168本。全てに番号が付いたが、実際に数えると162本となっている。
後藤が外町から内町へ回る1時間の散歩道は、天然記念物の枝垂れ桜を巡るコースと重なっている。料亭の帳場。散歩を終えた後藤が「萌黄色の枝垂れが黒板塀に映え、一幅の山水画となっていた。もうすぐ枝垂れがまるで緑が空から降り落ちて来るような眺めに変わる」と話し、パソコンに保存したデータから4枚の写真を選んだ。
写真は4枚とも後藤が定点観察に使っている天然記念物79番木。散歩終盤の平福記念美術館向かいの武家屋敷通り沿いにある枝垂れ桜だ。推定樹齢196年。「79番木は一本桜で定点観察に適している。均衡がとれた枝振り。立派な枝垂れ桜」と後藤。枝垂れが初夏の風にそよいでいる。「『緑降るさくら』と名付けている。葉桜とは言わないよ。もうすぐ“緑満開”」と後藤。「なぜ、角館の枝垂れ桜がこんなにも愛されるのか。それは黒板塀の黒と歳月を重ねた褐色の武家屋敷、漆喰の白が枝垂れ桜の背景にあるからだ。散った直後の萌黄色で始まり深い緑へと移ろう枝垂れの緑。このコントラストが素晴らしい。武家屋敷通りが初夏の野鳥の鳴き声、盛夏の蝉時雨、晩夏の虫の音に包まれると、藩政期にタイムスリップした気分になる」と付け加えた。次の1枚。
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