2017年02月01日
(雪国TODAY2017年2月号/全文1430文字/写真7枚)

350年の歴史を持つ掛魚祭り。金浦山神社に奉納されたタラ
急な石段を氏子の漁師が2人一組でタラを棒に吊るし、掛け声を上げながら登ってきた。神楽の音が響く社殿。「ほう、でかい。今年一番のサイズ」と詰めかけた人たちがどよめいた。大タラは、えらから口に通された荒縄で棒にだらりと吊るされ、目は一様に飛び出している。350年漁師町に続く奇祭、にかほ市の金浦山神社の掛魚(かけよ)祭り。この日を境に寒ダラ漁が終盤に入った。
昼過ぎの金浦漁港にタラ漁を終えた底引き漁船が次々と帰港し、浜が活気づいた。「やっと漁ができた。しばらく海が時化(しけ)ていた」と底引き網漁船・浩栄丸16㌧の今井浩一船長。

浩栄丸の今井船長

松宝丸の佐藤船長

金浦漁港のせり。せり人と仲買人が真剣勝負
この日、僚船の松宝丸17㌧と午前3時に金浦漁港を出航。予報では昼過ぎから北西の風が強まり時化。
「今日の網入れは3回。海が荒れる前に漁を終えた。通常は5回の網入れで100本から200本獲る。今日は50本。今季は海水温が下がり切っていない。ぱっとしない漁が続いている。今後の漁に期待したい」
昔も今も浜の風景は変わらない。金浦漁港では今井さんの家族が浩栄丸の着岸を待ちわびていた。「時化の前に帰港できてよかった」。午後の海は予報どおり北西の風が吹きつけ、白波がたち、時化直前の様相となった。金浦山神社の社殿。神主が漁の安全と豊漁を願って祝詞を奏上している。松宝丸船長の佐藤正勝さんが奉納した大タラにお祓いの順番がきた。浩栄丸と向かった金浦沖でのタラ漁を思い出した。
「午後から海が荒れるとの予報があったものの波は0・5㍍。穏やかな冬の海の夜明けだった。この日まで時化の日が多く、出漁の回数は昨年に比べて少なかった。穏やかな海に漁を続けるか一瞬迷った」
金浦漁港せり場。妻の妙子さんがせりに出すタラのチェックに忙しい。「良い値がついてほしい。でも夫には安全な漁を心がけてほしい」
掛魚祭りの1 週間前、休日の秋田市市民市場。金浦産タラ汁が1杯200円で振る舞われた。毎年行われる市場の寒ダラ祭りを楽しみにしている買い物客は少なくない。

金浦漁港のせりに出された大タラ
「タラのだだみ(白子)が淡いピンク色。新鮮だ。イベントに合わせて市場でだだみを買い、タラ汁を味わった」と市場近所に住む夫婦。
「来週はタラ漁でにぎわう漁師町の金浦、象潟、平沢へ行くつもり。本場のタラ料理味わいたい」と付け加えた。
にかほ市観光協会が1ヵ月間にわたって繰り広げたタラ料理のおもてなし「んだっ鱈(たら)、にかほ市へ!」が2月11日で終了する。
20店を超える市内の料理屋、ホテル、すし屋が参加して本場のタラ料理を振る舞った。
「1年で最も寒い時期、家でごろごろしていませんか。『それよりだったら、にかほ市へ行き、タラ料理を食べよう』をコンセプトに、タラ料理のおもてなし『んだっ鱈、にかほ市へ!』が始まった。年々秋田市などからの観光客が増えている」と観光協会。
平沢のすし屋・中川。店主は腰を少し落とし、左手のシャリ(酢飯)をぎゅっぎゅっと握り、右手人さし指、中指でネタとなるタラの漬けをシャリにあてた。両腕でリズムをつけながら踊るように握った。竿燈の妙技を繰り出す差し手の動きに似ている。
店主の遠藤健さん(51)がカウンターの中から1人前2500円の「タラづくし」を勧めた。「ネタのタラの漬けは、自家製タラの魚醤に漬けた。もし、タラが苦手でも一口食べるとタラの魅力に取り憑かれる」。
隣席の西目から「タラづくし」目当てに来たという佐藤さん。最後に出てきたタラ汁を味わい尽くし、ふーっと一息。
「タラづくし」満足しましたか。
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